30代になった社会福祉士・しげKickのブログ

昭和60年生まれ社会福祉士のしげkickです。福祉や医療関係、その他ゆるく書いていきます。

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認知症介護の将来を大きく変えた。2016年の「認知症患者による鉄道事故の最高裁判決」について解説してみた。

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2007年に愛知県神戸市で、要介護4の認知症の男性(91歳)が自宅を飛び出し、

徘徊中、駅の線路に入ってしまい、電車にはねられて死亡した事件がありました。

 

一緒に妻(当時85歳)が同居していましたが、夕方ごろ、

妻が6~7分ほど寝ているスキに、夫が外に出てしまいます。

 

事件当時、自宅の玄関にはセンサーがついていましたが、男性が出た時は

電源は切っていたため、作動はせず。

 

JR東海は、この事故で発生した振り替え輸送など約720万円の損害賠償を

その妻と横浜市に住む息子に対して、要求する裁判を起こしました。

 

この件を最高裁で争いましたが、

今後、この判決が私たちの福祉にどう影響していくのか考えてみます。

 

争点は民法における「監督責任」

民法では、子どもや精神障がい者などの責任能力がない人が、

相手に損害を与えた場合、その人には罪は問われません。

しかし、その代わりに、その親、家族や後見人が監督義務者として、

罪を問われることがあります。

 

今回の裁判は「家族に認知症がある男性の監督義務はあるのか」が争点になって

いました。

 

裁判で家族は

一瞬でも目をはなさずに見守ることは不可能。この事件は健常者と障がい者が

共存できるために企業側(JR東海)が支払うべきものである

と主張。

 

一方、JR東海は同居していた妻介護方針を決めていた長男

監督責任があると主張しました。

 

最高裁の判断は「家族に監督義務はない」

 

この最高裁では、妻と息子が監督義務者であるかを判断するために、

家族の心身状態、同居の有無、男性の介護状況なども

大切な判断基準にされました。

 

男性の妻は当時81歳と高齢で、自身も要介護1の認定を受けていたため、心身状態からみて「監督義務」はないと判断

 

また、介護方針を決めていた息子も横浜市に

住んでおり、離れているため監督はできないと判断されました

 

妻と息子2人とも「監督義務者ではない」とされ、

賠償責任はないと判決が下されます。

 

この判決がもたらした功罪

 

今回の裁判では、認知症を支える家族が、

「自身も介護される立場だった」「遠方に住んでいて介護ができない」

ということがこの判決のポイントになりました。

 

もし、賠償責任があると認められていたら、

間違いなく、認知症の人は徘徊しないように

部屋にカギをかけ、閉じ込める社会になったでしょう。

 

この判決によって、自宅で認知症の介護をする家族の負担は減り、認知症患者の自由を守ることができました。

 

しかし、逆に、心身ともに健康で、認知症患者と同居し、

日常的に介護をしていたら賠償責任が認められるとも考えられます。

 

そうなると、介護する側は積極的に関わるほど、

監督義務者になるリスクが高まることになります。

 

これは認知症患者にとって、望ましくないですね。

家族は自分たちで介護することを避けて、

施設に預けるか、最悪、見捨てることもあり得ます。

 

だからこそ、今後、自宅で認知症介護をしている家族を支えるしくみ作り

が大切になっていきます。

 

その皮切りとして、神奈川県大和市で、徘徊の恐れがある認知症高齢者を

対象とした公費で最大3億円の賠償金を負担する制度を導入しました。

www.nikkei.com

 

最後に

 

 

現在、認知症の人たちは462万人で、2025年には600万人を

超えると予想されています。

 

認知症の人たちが安心して暮らせるように

地域の人たちが見守りができる体制が求められていますが、

現状はうまくいっていないようです。

 

やっぱり、大切なのは「認知症に対して関心をもつこと」です。

明日は我が身だと思うことが大切になります。

 

また、家族に賠償責任がない場合、「被害を受けた人を

どうやって救済していくのか」考えるのも、大切な視点です。

 

いろいろ課題はありますが、無関心ではゼッタイにいけませんよ。